コラム
小さな命と向き合う
ケース1前編 ~重度認知症のダックスフント・チョコ~
はじめまして。北の小さな町に住む獣医師、DAIといいます。
昔の同僚であるYさんからの依頼により原稿を書いています。「ペットの命について考えさせられるエピソードをいくつか教えてほしい。難しい医療用語は使わずに」という指示付きの依頼が面白くてつい引き受けてしまいました。

実のところ死について語るのは苦手です。動物を生かす仕事なので。しかし、命について目をそらしたり他人事ととらえずに「向き合ってみる」「投げかけてみる」のが大事だな、と。そうしたわけで今回は “安楽死” の選択に迫られたご家族の話をします。重いスタートですみません。読んでみてください。
(僕は今さっき≪ふれあい動物園・感染ウサギの安楽死〇〇羽≫というネットニュースを見たばかり。たくさんのコメントが書き込まれていたけど、どちらが正しいとか答えのないやつだなこれ。でも、それだけアニマルウェルフェアへの世の関心が高まっている)
- アニマルウェルフェア「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義(農林省畜産HPより抜粋)

ケース1 前編 ~認知症のダックスフント・チョコ~
「先生、この子を安楽死させてください。お願いします」
忘れもしないチョコちゃん13歳の初診時の第一声です。事故でもない限り、初診での安楽死相談など無いわけですから、驚きで面を食らってしまったのを今でも覚えています。普通なら院長が怒鳴って送り返すところですが、この日の院長は違いました。「まず、お話を聞かせてもらえますか」
始まりは数か月前。今まで聞いたこともないような声でウォーンウォーンと狼のような遠吠えをし出したのが最初の症状だったそうです。「どうしたの!?チョコ?苦しい?」と心配し抱こうとする娘さんの手にチョコはかみつきました。こんなことは今までなかったのに・・・。いつもと違うその姿にご家族は不安を感じました。

かかりつけの動物病院から、認知症による行動と診断を受け、気持ちを安定させる薬や良く眠れる薬を処方されましたが、効果があるのは最初だけ。日を追うごとに攻撃性は増し、夜通し吠えるように。夜間は交代制でご家族の一人がチョコちゃんに付き添い、体をさすったりなだめたりしたということ。(僕はこの部分だけでもかなりしんどいと思う)
ネットで情報をもらおうと試みますが、声帯を除去する。口輪をはめる。などの強烈な方法を面白半分に書き込まれ、疲労困憊の最中にあるご家族の心を深く傷つけました。(現代のようにネットへのモラルは無く周囲の理解も得られない環境だった)
そんな中、とうとうお母さんの口からはこんな言葉が。「私、チョコを連れて遠くへ行こうかな。誰にも迷惑を掛けないところへ」。これを聞いたお父さんは、ある決断をします。
後編へ続く
